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42歳

一年を振り返り来年を考える毎年恒例の誕生日日記です。 誕生日をとうに過ぎ日本は年を明けてしまいましたが、 今回は独立までの経緯を記した後、「人生でリスクをどうとればよいか」 について自分なりのアプローチをまとめてみました。

Polaris Slingshot 借り物ですw

今年の誕生日は、2歳と9ヶ月になった娘のえみから風邪をもらってしまった。薬で風邪の 症状をおさえながらも、 一家3人で私の背丈より高いクリスマスツリーを買ってきて飾り付け をしたり、 妻からの誕生日プレゼントを開けたり、ケーキを味わったりという一家団欒の誕生日となった。 20人以上集まるパーティーをした昨年と比べると大分ひっそりとしたけれど、 これはこれで疲れないし、どんなことがあっても離れることのない家族がある幸せを噛みしめることができた。

独立起業までのあれこれ

昨年の日記で父親が自分の年頃だったころと比較してみたのが大きなきっかけとなり、 今年は一歩踏み出した。草創期から6年近くファイブスターズのデータサイエンティストとして働いた。 その傍ら、ついに自分の会社Anelenを2月に設立した。 LLC(Limited Liability Company、有限責任会社) の設立後、カリフォルニア州マウンテンビュー市を本拠地としてビジネスができるよう、 ライセンスをとったり、銀行口座やビジネスクレジットカードを開設したりとセットアップ までの道のりは長かった。昼間の仕事をこなしながらやっていたら、 会社としての体裁が整うまでに半年かかった。

Anelenはデータサイエンスのコンサルティングを主な事業として設立した。しかし、 誰に、どのようなサービスを提供するかは白紙だった。会社のセットアップをしながら、 様々な方々と食事やコーヒーをしながらカジュアルな対話を重ね、 さらに人を紹介してもらうことを繰り返した。また、サービスの購入決定者をターゲットの読者として、 ビジョンを示すブログ記事を数本書いて、 リンクトインやツィッターに共有して反応を確かめてみた。 さらに、クライアントになりそうな相手の相談に半分のる形で、 問題解決へのロードマップを書きだし、仕事を見積もったりもした。 昼間の仕事の片手間では、なかなか実際の契約には結びつかなかった。 しかしAnelenのマーケットを明確にする上で、大事な学習プロセスだった。

7月末から8月の頭にかけ、母が日本から孫の顔を見に来たのをきっかけに一週間以上休みをとった。 忙しいスタートアップでの日常を離れ、家族サービスに集中した。これが気分転換になり、 頭の中が整理された。休暇が終わって間もなく、 ビジネス口座のクレジットカードが届いた。 当初、ビジネスクレジットカードは入手に手こずっていたので、 手に届いたカードが発射準備完了のシグナルに感じられた。 8月25日をもって非常に愛着のあるファイブスターズを離れた。

考えずに走り出し、走りながら考える

いざ独立したのは良いものの、客はまだいなかった。我ながらまったく無鉄砲なことをした。 以前から繰り返していたネットワーキングを続け、 かねてから付き合いのあったところにも独立の挨拶をした。 すると運の良いことに、独立して2ヶ月の間に3件の契約がとれ、 来年の3月末まではこれまでの年収に追いつくペースが見えてきた。

今のところAnelenには二つのサービスがある。 一つ目はシリコンバレーで成長の著しいスタートアップに対する、データサイエンス・ アナリティクスのソリューションを提供するもの。具体的には、 シリーズAまたはBの資金調達ラウンドをへて、 従業員が50人前後になった会社のアナリティクスプラットフォームを導入をまず手伝う。 こういった会社は、創業者の直感と経験で作った製品・サービスがマーケットに受け入れられ、 ベンチャーキャピタルからの出資を受けて本格化したものだ。 ここからはチームを拡大し、日々の業務判断は現場が自主的に行える土壌を整えなければならない。 現場がデータをもとにした根拠のある計画をたて、実行した結果を測定するために、 アナリティクスインフラを整えて社内データを整理する。 製品サービス展開に集中する小さな会社は、分析のノウハウに欠けることが多いので、 弊社が導入と活用を引き受ける。私が本当にやりたいのは、統計分析や機械学習モデルを駆使して、 クライアントが戦略的決定をスマートに下すのを支援する部分だ。しかし、 データの定義が不明確であったり、記録が均質に行われていない状態では、いわゆる "garbage in, garbage out"(ゴミのインプットはゴミのアウトプットを生む)となる。 それでは洗練された統計モデルがかえって間違った判断の原因となってしまう。 よって依頼された仕事の前半ではクライアントのビジネスとデータへの理解を深めながら、 データの整理をまずは手伝う。そして後半で深い分析をするというわけである。

二つ目は、日本の新規事業がシリコンバレー流の製品開発、 事業展開のノウハウをアドバイスするサービスである。 私には、ファイブスターズでシードステージからシリーズC資金調達後のグロースステージまで、 中核メンバーとして働いた経験がある。さらにAnelenにて様々なスタートアップと仕事を行う中で培った、 生の経験をもとにした私のアドバイスは、本を読んで勉強した基本事項を補強し、 実戦に役立てる上で有益になりえる。こちらのビジネスも早くから声がかかり、 アドバイザーや講師をさせて頂いている。

二つのサービスが車の両輪のごとくに補完しあって回ることを期待している。

シリコンバレーではリスクを取らない人間は敗者決定?

独立起業には当然リスクがともなう。そこでリスクを取る意味について、私なりの考えをまとめてみたい。

石を投げれば起業家にあたるとも言われるシリコンバレーであるが、この地域に住む 大半の人間は普通に会社員・従業員をしている。起業したり、スタートアップに勤める人間はどれくらいだろう。 なかなか新しいデータで良い統計がないのだが、例えば2000年から2010年に生み出された新業種からの雇用の割合は、 サンフランシスコやサンノゼでも地域雇用の2%を越えないのである。

(出典: Industrial Renewal in the 21st Century: Evidence from US Cities )

だから、いざ脱サラして独立したと人に告げると、人は"You are so brave."(勇敢だね) という声がかえってくる。一方、私の住むグーグルのお膝元、マウンテンビュー市の家計年収の中央値は約10万ドル(2015)1なのに対し、 住宅販売価格の中央値は125万ドル程度(2015)2と、 平均的なサラリーマンをしていてはマイホームは夢のまた夢なのである。 たとえグーグルのような一流企業に勤めていても、 普通の社員で市内にマイホームを持つのは難しいだろう。

だから、リスクの高いスタートアップのストックオプションで一攫千金を狙うことになる。 超高給取りなエクゼクティブになるのも手であるが、席が限られる。 アメリカの大企業で上には登り詰めるには、時に大きなリスクの伴う大胆な決定を自ら下す、 リーダーシップがあることを証明しなければならない。そこで負ければ他者にポストを取られ、 そのまま停滞するか転職して仕切り直すかである。

生活費の高騰するシリコンバレーに住んでいて、何らかの形でリスクを取らない人間は、 一生うだつが上がらないと言っても嘘ではないだろう。

頑張るだけでは報われない世界

ではシリコンバレーの外はどうだろうか。 第二次世界大戦のダメージから這い上がり、国民が足並みをそろえて経済復興と成長をとげたような、 社会モデルは先進国のどこをとっても遠い追憶となった。 厳しいことだが、頑張れば報われるとか、言われたことをしっかりこなせば着実に昇進する場所は、 どんどんなくなってゆくと思う。なぜかといえば、今や生産の原動力は労働力ではなく、 テクノロジーにどんどん移り変わっているからだ。アメリカでは金融危機後の数年間で、 設備投資やソフトウェア費用は26%上がったが、賃金は横ばいであった。 同時にテクノロジーの所有者である企業の利益は、賃金の停滞を尻目にみるみると回復し、 金融危機以前のレベルを遥かに上回った。

(出典: Why Workers Are Losing the War Against Machines)

大不況がこの傾向を増幅させた部分も否めない。しかし、非農業部門の総生産のうち、 労働の占める割合は80年代からずっと下降しているのだ。

(出典: The compensation-productivity gap: a visual essay)

エピソード的に語れば次のような形だろうか。幌馬車の時代、御者という仕事には安定した需要があった。 しかし自動車の出現により、彼らは職を失うか運転手に鞍替えをしなければならなくなる。 さらに時代は下り、自動運転技術の開発がどんどんすすむ現代、 ほとんどのタクシーの運転手が職を失うのは時間の問題となったと言って良いだろう。 これまでタクシーの運転手に分配されていた収益は、将来、 自動運転技術を保有する企業の手元にすっかり残ることになる。

また、情報テクノロジーよって加速するネットワーク経済は"Winner takes all"、 つまり「勝者がすべて持ってゆく」という特徴をもつゲームである。3 エンターテイメントを例えにしてみよう。その昔、紙芝居屋やちんどん屋は、 地方ごとに住み分けをして互いに邪魔をせず商売することもできた。あたらしいエンターテイメントである映画館は、 街中の人を収容してしまう。さらに娯楽に費やす時間の大部分は一握りの局が配信するテレビ番組にうつる。 最後には、インターネットから限りないタイトルをオンディマンドで配信する、 ネットフリックスがあらわれてテレビ視聴者を奪い、一人勝ちになって終了する。

労働力が機械に置き換わり、ネットワーク化された社会では、 少数の超勝者とそれ以外という構図をどんどん生み出すだろう。

勝者を所有せよ

ネットワーク効果の強い社会で経済的な成功をおさめるには、 生産力を高めるテクノロジーを保有するしかない。 テクノロジーを直接所有しない外野ができるのは、技術を有する会社の株を購入することだ。 どの技術がどこで芽生え、どこまで成長するかは未来の話なので、 投資の際には相応のリスクとることとなる。 しかし、それが当たればとんでもない報酬が得られる事例が増えてきた。

2011年には1ドルだったビットコインが、今年になり大衆からの注目をうけ2万ドルを記録した。 「もし仮想通貨が取引の主要媒体となれば、当初ビットコインをただ同然で多数入手した一握りの人間が、 巨万の富を得ることになり不公平だ。」そんな声も聞かれる。 不公平という意見を持つのは人の自由だと思う。それを国に規制という形で直すことを求める人もいるだろう。 しかし、ネットワーク効果がグローバルに広がる時代、一国家が規制に走っても、 その国全体が世界から取り残されるだけだ。「勝者がすべてをもってゆく」という流れを規制でとめることはできない。 だから、そういう潮流に自分の意見で突っ張っても生活は苦しくなるばかりだろう。

幸運なことに、私達は株式投資という形で勝者の一部を保有し、 その生産性から投資リターンを得ることができる。 少ない給料でも、一部は必ず貯金をして種銭をつくり、そのお金で生産性の高い企業の株を買う。 投資にはリスクが伴い、失敗はつきまとう。立ち直れる程度の怪我を繰り返しながら、 だんだんと成功率を高めていくのが投資である。 ビットコインのような場外ホームランはなかなかなくとも、さまざまな案件のリスクを、 注意深く繰り返しとってゆくことで、十年の間に確実に豊かになってゆく。

豊かになれば、一回にとれるリスクも大きくなる。 リスク許容度があがれば、確率は低くても当たった時に大きい案件にもトライできるようになるわけだ。

身の振り方を決める場面でリスク許容度が試される

取れるリスクを年々大きくする。このことは投資に限ったことではなく、 自分の職業的な身の振り方にも当てはまる。 私がこの歳に至って起業という決断をしたのも同じ考えの延長だ。

40歳前後で人生に焦りを覚え、遅ればせながら子供が出来た時、これからどういう人生を送りたいか考えた。

  1. 時間:家族との時間を第一にしたい。娘との貴重な時間を大切にしたい。
  2. 生きがい:ゆくゆくは人に役立つ仕事を残したい。
  3. 経済力:さらに豊かになり、経済的自由を獲得したい。

このような願望をもったとき、普通の勤め人では駄目だと思い、転職は選択肢からなくなった。 また率直に言って、他人が作った会社に勤めるということに飽きていた。 幸い、独立に挑戦する準備は整っていた。それは、

  1. 半年くらい収入がなくてもなんとかなる貯金はある
  2. 独立後のフィナンシャルプランに家族は合意している
  3. 市場のニーズと対価は確認できた
  4. 失敗した時のプランがある(3ヶ月以内には再就職できるだろうという目安)

ということだ。金銭、スキル、家庭環境、社会環境、それぞれの面で何年もかけて自分なりに、 少しずつ成長してきた結果だ。

だから金銭の上では、それまで株式投資に回していたお金の一部を自分の独立事業に投資する感覚で決断ができたのだ。

リスクは無限ではない。必要な資金は、独立をする間の、会社の運転費用と家族を支える生活費である。 私は3ヶ月以内に契約を取る目標で妻と合意した。3ヶ月たってさっぱりであれば再就職に舵をとる。 だから資金的なリスクは最大でも3ヶ月の運転資金と、半年程度の生活費だ。 もちろん、再就職が決まらないという可能性もないわけではないが、 そもそも転職にすら自信がなければ独立などしないだろう。

失敗した場合でも、勇気を持ってやってみたという履歴と学びは、やった分だけかならず残る。 その高い勉強代にお金が全部行ってしまったとしても後悔はない。 自分にとって、退屈な会社で退屈な人生を送るよりは何十倍も幸せだ。

まとめ

頑張るだけでは報われない世界などと悲観めいたことを書き、 自分のような小市民がどうすれば活き活きと暮らし、 少しでも理想に近い環境を子供らに残すことが出来るのかの方策を考えてみた。 もちろん、皆それぞれ私とは別の観察眼を持ち、価値観や生き方も千差万別だ。 例えば妻は教育研究者であるが、不確実性が彼女にとってもの一番のストレスの原因となるので、 退屈でも安定した今の会社が良いそうだ。逆に私は退屈するのが死ぬよりつらいし、 退屈と暗闇ならば後者を選んでしまう。

今年は、これ以上望めない滑り出しをさせていただいた。でも来年はと言えば暗闇だ。 皆様のお力を遠慮なくお借りして、来年も豪快に生きたい。

Original post: Dec. 31, 2017 | Last updated: Jan. 1, 2018

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