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シリコンバレーのスタートアップへ転職成功の経験を整理

シリコンバレーのあるスタートアップ(※)からシニアソフトウェアエンジニアの内定をもらいまいた。正直、半分以上は運と偶然です。でも、経験を私なりに整理して簡潔にまとめておきたいと思いました。転職の背景、心の準備、内定へ3つのステップ、レファレンスという構成で書きます。

転職の背景

2011年10月はじめ、4年半住んでいたテキサス州ヒューストンからカリフォルニア州マウンテンビューに引越してきました。前から移住を考えていましたが、妻の転職が直接のきっかけです。私はそれまで油田サービス会社の原油探査部門でアルゴリズムを開発していて、引越後2ヶ月はマウンテンビューから在宅勤務をしていました。製品開発はやはりチームと同じ場所で働いたほうが生産性が高いので、引越直後から転職を考えていました。在宅勤務をずっと続ける選択もありましたが、新しい世界に飛び込もうと決心して、自分の行動を促すために会社の上司にも2011年一杯で辞職することを告げてありました。

心の準備

私は中学生の頃からいくつかのプログラミング言語とアセンブリ言語でコードを書いてきましたが、学部、大学院ともコンピュータサイエンス専攻ではありません。コンピュータサイエンスであったら真っ先に習うようなアルゴリズムやデータ構造の知識は、バイオメディカル分野の研究をしながら自習で補ってきました。今でも冷汗をかきながら基本を勉強することしばしばです。その一方、コンピュータサイエンスの学生でもさわらないことの多い数値解析、幾何モデリングを勉強する機会に恵まれました。また、大学院での研究や原油探査部門の仕事を通じて、外科医や地球物理学者といった自分と異なる分野のエキスパートと会話をし、彼らの要求をコードに置きかえる訓練を続けてきました。

原油探査の仕事を飛び出して、このシリコンバレーの真ん中で次は何をしたいのか。自分でも分からなくてしばらく本当に悩みました。一人で悶々としていても仕方がないので、まずはできるだけたくさんの方々に会うことにしました。幸いここには、高校、大学、そして大学院の先輩や友人、またオンラインで交流を続けていた方々がたくさん住んでいます。一週間にいくつも昼食や夕食の約束をつくって、皆さんがこの地で何をしているのかをじっくりと聞かせてもらいまいした。これは自分を見つめる上で非常に大事なことだったと思います。

そうするうちに、自分は3つの事に集中しようと考えました。テクノロジー、製品開発プロセス、そしてビジネスの勉強です。一番目のテクノロジーはある程度自習が可能との自信が少しあります。すくなくとも大学に戻ろうとは思えませんでした。二番目の製品開発プロセスは、ヒューストンでの4年半で実践的に学ぶ機会に恵まれました。私の場合、アジャイルソフトウェア開発手法、特ににスクラムが経験の中心です。そして最後、ビジネスの種をまいて、回して、育てていくというのは、それまで勤めていた巨大な企業で、主に社内向けの製品を開発しているだけでは学習は難しいと思いました。豪華客船のクルーとしてボイラー室だけをのぞいている状態から、もっと小さなヨットで海に飛び出して、少人数のクルーと共に全部に責任をもつ環境に自分を放り込みたいと思いました。

アメリカというのはヘッドハンターやら企業のリクルーターが絶えず人材を引っ張りあっている状況なので、それまでも度々転職の誘いのメールや電話は受けていました。自分の集中したいことが決まってからは、有名で出来上がった会社からの誘いへの興味はすっかりなくなりました。そして小さなスタートアップにのみ照準をあわせることにしました。心の準備が完了です。

内定へ3つのステップ

転職活動に偏った話ですが、内定までには大まかに3つのステップがあると思います。

  1. リクルーターから声がかかる
  2. 面接
  3. オファー交渉
です。

内定へ3つのステップ リクルーターから声がかかる 面接 オファー交渉
内定への3つのステップ

図で示したとおり、広く浅く始まり、だんだん集中してヒートアップしてゆくイメージが私の中ではあります。

リクルーターから声がかかる 今回の転職活動では、ジョブフェアに行ったり、一社一社に履歴書を送ったりという伝統的なことは一切しませんでした。私はそれらを否定するものではありませんし、今でも有効なチャンネルだと思います。でも今回は、自分で獲物を追いかけるよりも、釣り糸をたれて魚がかかるのを待っていたようなイメージでした。いわばジョブ「ハンティング」ではなく、ジョブ「フィッシング」でした。

アメリカの失業率は高止まりしていますが、魚はいるところにはいます。幸い、ソフトウェアエンジニアの需要は総じて高いなというのが感触です。金融ショック後でも、優秀なエンジニアにはシックスフィギュア、つまり10万ドル以上払う企業はたくさんあります。(これは数年前までは日本円で一千万円でしたが、最近は円高ですっかり目減りしてしまいました。)優秀な人材を獲得するためにヘッドハンターや企業のリクルーターは常に動いていて、目に止まりさえすれば本当に向こうから食いついてきます。何十社も履歴書を送りつけて仕事を追いかけたり、背伸びして実力以上のところに無理に飛び込んで怪我をするよりは、実力をつけることにエネルギーを使ったほうが良いと思います。

リクルーターに声をかけて欲しければ、つけた実力はみせびらかさねばなりません。リンクトイン、フェイスブック、ブログ、ツィッターなど、昨今は見せびらかす場には事欠きません。私は、定期的に自分のスキルレベルやこれまでの実績をチェックして、他の分野の人でも評価できそうな表現に置き換えた上でリンクトインのプロフィールを整理しています。その際、私はリクルーターが検索しそうなキーワードを散りばめるよう意識しています。もちろん、自分にないものを書いては絶対ダメです。ことアメリカの転職はレファレンス(推薦)が必須です。嘘をついてもすぐにばれますし、運良く仕事にありついてもそこで評価を落として解雇され、次の職探しがずっと困難になります。ここまでが「釣り糸を垂れる」ということです。

魚は網にかけてとることもあります。つまりネットワークが大事です。出しゃばり過ぎないで、心地よい相互関係をより多くの人と結ぶことが大事だなと最近特に実感しています。その反映として自分のソーシャルネットワークも広がってゆき、網目を伝わって自分が発見される機会も多くなります。次のようなこともありました。私はワイアード誌を購読していて、ある記事を読んだ後、その記事にリンクをしながらひとつブログ記事を書きました。リンクを逆にたどって名の知れた記事の筆者が私のブログを彼のツィッターで紹介してくれました。その後ブログは記事の反響としてワイアード誌でも触れてくれました。紹介されたブログ読んだリクルーティング業界のプロが私に連絡をとってきました。彼女は無数のコネクションをもっており、私のために強い推薦状を書いてくれたりもしたのです。人生、何が幸いするか分かりません。心を開いて、のんびりとした気持ちでいろいろ試してみるのが良いのだと思います。

実際に転職活動に入る前から以上のようなことを続けていました。だから私のジョブフィッシングは悠長な話に映ったかもしれません。私がもし失業中でとにかく仕事を見つけなければならならない状況だったら、「ジョブハント」的な手法をとっていたと思います。

それから、いわゆるジョブリスティングサイトも利用しました。スタートアップならば、StartUpers.comやAngel.coのアカウントを作り、履歴書をアップしておくのも良いと思います。今回私にオファーをくれた会社は、StartUpers.comで私の履歴書をみて、やはり向こうから連絡をとってきました。

面接 リクルーターの多くは、技術職のスキル概要は知っていても、候補者の習熟度をちゃんと測れるほどの専門知識はもちあわせていません。彼らは候補者のリンクトイン、フェイスブック、ブログ、履歴書を読んでクライアントの必要とするスキルのキーワードを拾ったり、候補者の実績から目星をつけます。だからリクルーターと話をする段階では、難しい言葉を並べるよりも自分のスキルと経験を簡潔に答えれば良いのだと思います。そういう意味ではこちらもまだ広く浅くという段階だと思います。ただし、リクルーターにも分かりやすい表現で、自分を売りこめるに越したことはありません。(例:前の職場での査定がよかったとか、自分が重要な役割を果たした製品がこれだけの売上を記録した、等)また、リクルーターは会社にとって問題児になりそうな人を候補から排除します。なぜ転職を考えているのかや、前の会社での生活はどうだったかを聞かれて、前の会社の悪口を言うような人はアウトでしょう。「前の会社には、こういう面で実力をつける機会を与えられて非常に感謝している。自分の成長を考える時、そこから巣立ってこれからはこういう経験を積むべきだと考えた。」など、具体的で成長志向な転職動機を語るように私は心がけました。良い子ぶるというわけでなくて、そういう自分の言葉を紡ぎ出す事自体、転職活動を前向きで実のある成長の機会に深化させるのだと思います。

アメリカは国土が広いですので、遠隔地の候補者は技術面接も第一段階は電話でということが珍しくありません。(そういう意味で、最初は日本にいながら電話面接を重ねるというのもありだと思います。)自分のチームメイトや上司となる人が専門的な質問をしてきます。中には問題を提示されて、決められた時間以内にプログラミングコードをメールで送れと言われる場合もあるでしょう。会社に候補者を呼んでの面接は、移動費と滞在費を会社持ちにする場合が多いですから、面接する方は電話での候補者の選定にはそれだけ必死です。

会社に呼ばれての面接は一日がかり、中には数日かけてというところもあるそうです。私の場合、チームメイトや上司となる人が数理パズルの問題を次々に出題し、問題を解くアルゴリズムを説明した後、ホワイトボードに実際にコードを書くことを休みなしに4時間くらい続けさせられました。第1題目はウォームアップ程度の問題だったのですが、緊張のあまり脳が硬直する感覚がして簡単なはずなのに頭が働かない。諦めそうになる自分を心のなかで何とか励まし続けて、エンジンのかからない車のクランクをゴリゴリ回し続けるような感じでなんとか切り抜けました。そうしたら2題目、3題目と問題は難しくなっては行きましたが、緊張はとけて問題に集中できるようになりました。

技量を測る面接が終わった後は、開発チーム5人とコーヒー屋で懇談しました。スタートアップは少ない人数で長く時間を一緒に生活をして、大企業を打ち負かす生産性を発揮しなければならない。だから技術があってもソリが合わなかったら雇ってくれないのは当たり前だと思わなければなりません。懇談は人物をみられる場だということです。笑顔、挨拶、しっかりとした握手。他人と打ち解けて会話をスタートするコミュニケーション力。自分の発言と人の話を聞く分量のバランス感覚。リラックスした歓談の中にも会社のビジネスと照らして実のある話題や質問をちりばめる思慮の深さ。少し考えただけでもこのくらいのことは念頭に置いていました。事前に会社やビジネス、セクター動向、競争相手などをよく調べておいたのが、懇談を充実させるのに非常に役立ちました。ここで考えて欲しいのは、こういった準備や懇談を自分も楽しめているかということです。いくらやっても苦痛でしかないのならば、その会社のビジネスやそこで働く人の性格がそもそも自分に合っていない可能性が高いです。こちらも会社を面接しているということを私は忘れないようにしました。

実際には、会社での技術面接を通った後、出張中のCEOとスカイプで1時間の面接もありました。CEOとの面接はまだ従業員の人数が少ないスタートアップならでのことだと思います。CEOは技術面接をパスした私について、人物、仕事のスタイルが会社と合致するかを見ていました。CEOには会社の価値観、ビジョン、将来の組織構築など、トップにだからこそ聞きたいことに絞って質問をしました。その回答を会話の糸口として、自分のセールスポイントや考え方を述べて充実した会話をすることができました

最後に、各段階の面接で重要なのが、「何か質問はありますか?」と聞かれる瞬間です。「それは良い質問だ」と思わせるような質問を人事、技術等の各面接担当者にそれぞれ3つほど用意できたか。それを自分が会社を十分に調べたかのバロメータとして使っていました。質問の内容次第では落とされます。私の妻は、前にいた会社で面接担当をした時、候補者が質問が「ヒューストンライフってどう?」というくらいの質問しかしなかったことがあったそうです。その候補者を迷わず不合格にしたそうです。

オファー交渉 今回、会社が採用を予定していたのは開発メンバー二人のみで、うち一人はすでに決まっていました。会社は2ヶ月かけてたくさんの候補者を面接したそうです。その中で最終ラウンドに残ることが出来ました。そしてCEOの面接を終えた感触から、私はこれはひょっとすると、という自信が湧いていました。ところがそこにもう一人有望そうなライバルが現れて、会社は面接をすることにしたのです。だから私の結果はそれが終わるまで保留という、なんとも不安な状況になりました。

私は面接の初期段階で、基本給、ボーナス、ストックオプション、有給休暇日数、福利厚生などの質問は控えています。聞きたいのは山々なのですが、会社側の人々との限られた面接時間を仕事の中身を知るために使うのか、自分が得られる報酬ばかりに関心があると印象づけてしまうのか、ということです。これらはオファーレターに書いてあるもので、オファーが出てから、サインする前に交渉してよいのです。ただし会社も私たちの値段が知りたいので、前の会社での給与や待遇はどうだったかを聞いてきます。これにはありのままを正直に答えました。こういった話題でのやり取りはオファー可能性が高まった段階から突っ込んだ話が多くなりました。

ここでスタートアップならでの配慮をひとつ。非常に早い段階でスタートアップに加わる場合、会社の給料は増資が行われるまで平均より低い場合が多いです。私はそのことは承知の上、スタートアップで働いてこそ得られる経験が欲しいからシックスフィギュアを払ってくれている今の仕事を飛び出すのだと念を押しておきました。さらに自分が普通だと感じる生活に必要なお金はどれくらいかを計算した上で、最低限必要な給料は事前に決めておきました。現在の給料と、最低限必要とするラインを提示することで、会社と自分の期待値をすり合わせていった感じです。

交渉で動かせるのは給料の高低だけではありません。有給休暇の日数、初出勤の日付、ストックオプション(もしくは上場企業であれば自社株割引購入制度)などが挙げられます。

給料が出せない分、スタートアップはストックオプションで従業員に報いようとします。私はスタートアップで働くのは始めてでしたので、提示されたストックオプションの待遇をどう評価して良いか、正直わかりませんでした。実際ストックオプションは付与株数の他、オプション行使価格、将来の会社の増資計画、エクジットシナリオなど考慮しなければいけない変数が多く、不確かさの塊でもあります。自分で調べたり、ベンチャーキャピタルに勤めている友人に助けを求めたり、思い切って専門家にメールを打ってみたりしました。(その専門家とは広瀬隆雄さんで、親切にもお返事をいただき、A VCのMBA Mondaysを読破するように勧められましたので、ここでも紹介しておきます。)ただし、スタートアップのストックオプションに期待をかけるのは危険なことだと思います。オプションを行使するには自分の貯金に手をつけることになります。オプションを行使して儲けを出すには、スタートアップが他の会社のマーケットシェアを奪ったり、新たなマーケットを開拓してビジネスが成長する他に、M&AやIPOの地合いが良くて慎重な綱渡りを見事成功させなくてはいけません。買った株で儲けを出すどころか損をしてしまう場合の方が多いかもしれません。私が今回オファーにサインしたのは、会社が私がこれなら大丈夫と思えるだけのキャッシュ、給料を出してくれたのと、そこで得られる経験が私の将来に良い影響をもたらすと信じたからです。(個人的には、良くコントロールされたギャンブルは好きなので、リスクを緻密に計算した上で背伸びしない投資はしようと思いますが。)

レファレンス

最後のトピックはレファレンス、つまり他人からの推薦で、アメリカで転職する場合、これなしで内定をもらうことは不可能でしょう。アメリカでは問題を起こして首を切られたのでもない限り、前の会社の上司からレファレンスになってもらう普通のことです。私の場合特殊だったのは、まだ勤めている会社に辞める予定を伝えて合意ができていたので、やめる前の会社の上司にレファレンスになってもらえたということです。それ以前は大学にいたので、今の会社からレファレンスがもらえたのは非常に幸運でした。普通レファレンスは以前自分をよく知っていた上司二人かせいぜい数人といったところですが、今回、会社側は異常といえるほど慎重で結局上司と同僚合計11人(!)のレファレンスを私は用意し、人事担当者はほぼ全員と長時間電話で話したそうです。これはさすがにびっくりしました。 日本から転職しようとすると、推薦者が英語で会話できないとレファレンスになれないと思いますし、自分で完全にコントロール出来ない分、難易度が高いかもしれません。考えられる知恵としては、

  • 会社の海外部署で経験を積んでレファレンスを獲得する
  • 外資系から海外本社等に移転して数年勤める
  • 海外と取引のある部門で働き、得意先の人にレファレンスになってもらう
  • アメリカの大学院に入りなおして卒業後、半分新卒扱いでとってもらう
などでしょうか。いずれにせよ数ステップ踏むつもりで準備をした方が良いかもしれません。

以上、簡単にポイントだけ一気に書いたので、舌足らずになってしまった箇所もありますが、何とか内定を勝ち取りました。仕事を探すこと自体にあまり労力をかけすぎたくもなかったので、期待以上の会社がみつかったのを良いことにすぐに決めてしまいました。

※会社はポールグレアムのY Combinatorを卒業した中でも高い初期投資を集めたスタートアップで、創業者二人は投資銀行とコンサル最大手の出身、エンジニアは元グーグル社員などから構成され、これを書いている時点でシリーズAラウンド前の非常に若い会社です。

Original post: Dec. 17, 2011 | Last updated: Dec. 17, 2011

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